アンコンシャス・バイアス、3年間の取り組み 〜ダイバーシティ推進と上司力向上〜
ダイバーシティ推進の阻害要因として重要視される「アンコンシャス・バイアス」。
「無意識の偏見」と訳されますが、「思い込み」であったり、場合によっては「配慮」であると思われていたりするため、なかなか自分では気づきにくいものです。
本レポートでは、アンコンシャス・バイアス対処に継続的に取り組み、ダイバーシティ推進や上司力向上につなげられている大同生命保険株式会社様の事例をご紹介します。
お話しくださったのは、人財開発部・部長、谷村清美様。聞き手は株式会社チェンジウェーブの大隅聖子です。
※2022年10月開催のオンラインセミナーをもとに作成。肩書は取材当時。
目次[非表示]
- 1.登壇者紹介
- 2.アンコンシャス・バイアス3年間の取り組み
- 2.1.女性活躍推進のこれまでの流れ
- 2.2.上司の変革を目指す取り組みを開始
- 2.3.2020年度実施のANGLE導入について
- 2.4.2020年度ANGLE受講結果を分析
- 2.5.2021年度の取り組みと結果
- 2.6.2022年度の取り組み
- 3.質疑応答
登壇者紹介
ゲストスピーカー
大同生命保険株式会社 人財開発部 部長
谷村清美 氏
大同生命に一般職として入社後、営業統括部門、人事部門、内部管理部門等で多様な経験を積み、
2013年に全国転勤のある全国型へコース変更。
2014年より大阪の人事部門・広報部門を担当し、2017年より人材力向上推進室長として、
全社の人材育成に取り組む。2022年より現職。
モデレーター
株式会社チェンジウェーブ 取締役 大隅聖子
リクルートで人材採用、教育領域の営業責任者を務めた後、ローソンにて人事担当役員に。
ダイバーシティ推進をけん引する。
その後永谷園にて新規事業を立ち上げた。2020年より現職。
アンコンシャス・バイアス3年間の取り組み
女性活躍推進のこれまでの流れ
谷村清美様(以下、谷村):
大同生命でのダイバーシティの推進においては、いくつかの段階に分けて取り組んでまいりました。
まず、女性の活躍推進を重点課題として位置づけ、2014年には「女性の活躍行動推進計画」を策定しました。
2016年から2018年にかけては女性活躍の土台(制度・環境・意識)の形成として、女性が働きやすい制度の整備に取り組むとともに、女性が能力を最大限に発揮できるよう、様々な「環境・機会の提供に注力しました。積極的な女性管理職登用や女性管理職候補の計画的な育成に着手したのもこの頃です。
そして、2019年からは一人ひとりの活躍支援を目指す「Action Plan for D-Women~女性活躍推進計画~」に基づき、上司による支援に着目しました。
上司の変革を目指す取り組みを開始
上司による支援に着目した背景には、2017年度に行った従業員の意識調査がありました。調査結果では、職位任用者の3割が「職場に男性向き、女性向きの仕事があるという雰囲気がある」と回答しており、その点を特に重く見たということです。そこで2019年度から「上司の変革」を打ち出し、その取り組みの一つとして、アンコンシャス・バイアス研修を取り入れました。
上司の変革として明確にした、目指すべき上司像とは
※谷村様投影資料より
2020年度実施のANGLE導入について
実施期間:2020年8月〜9月(管理職7回版)
受講対象者:本社・支社関連の全役職者1748名
目的
受講者:自身のアンコンシャス・バイアスの認識特徴の把握
無意識な言動に対するコントロール方法の習得のため
会社: 全体的なアンコンシャス・バイアスを測定し、社の傾向を把握する
結果:全体分布では他社と同程度の傾向だったが
性別バイアスでは63%、年齢バイアスでは48%が「バイアスが強い」とされる範囲に存在。
2020年度ANGLE受講結果を分析
谷村:
ANGLEの受講結果を見たとき、「1歳の子供がいる社員に対して海外出張を打診するか」という設問への回答に、当社役職者の特徴が出ていると感じました。
- 「1歳の子供がいる女性の部下に対して海外出張の打診をする」39%
- 「1歳の子供がいる男性の部下に対して海外出張の打診をする」66%
と、その差は27%ありました。
また、「女性の部下に対して打診をする」と回答した「女性役職者」の割合は、他社の女性回答者よりも25%低く、女性役職者が女性社員に対して、機会提供の場面で他社よりもバイアスのコントロールができていない可能性があるということがわかりました。
これは、ある意味、部下の環境に配慮した「優しい配慮」の結果だとは思いますが、配慮が過剰となっては成長機会を失わせてしまいます。役職者が部下に配慮して決定するのではなく、部下本人にその機会を思案・選択させる場面を与えることが必要です。
2021年度の取り組みと結果
こうした状況を受けて、2021年度はバイアスをコントロールするためのスキル習得を目標とし、2020年度の自身のe-ラーニングANGLE受講結果の振り返りを含む形で、動画視聴と職場での実践を行うe-ラーニングを実施しました。
受講後には、「アンコンシャス・バイアスの存在に気づけたか」「アンコンシャス・バイアスをコントロールできるようになったか」という質問に、90%が「気づけた、できるようになった」と回答しました。部下に活躍機会を与えられる上司となることについては一定の効果があったと判断しています。
2022年度の取り組み
アンコンシャス・バイアスについては「無意識にしてしまうことだからこそ思い出す機会を提供し、意識し続けることが定着への道」と考え、継続した学習機会を提供しています。
まずは振り返りのための動画作成、そしてアンコンシャス・バイアスについてのセルフチェックができるハンドブックをチェンジウェーブ社に作成してもらい、全役職者へ提供しています。
また、新たに、本社・支社・関連会社のスタッフ層に対して、ANGLEによる「アンコンシャス・バイアス」の学習を開始します。
会社が環境を整え、上司がバイアスをコントロールして部下の活躍を支援するとしても、当の部下本人たちが「女性だから」「勤務地がエリア限定」「まだ新人だから」「もうシニアだから」「子供がいるから」「短時間勤務だから」「介護をしているから」…と自分で自分にバイアスをかけてしまっていたとしたら、いくら機会を提供してもチャンスを生かしてもらえません。
2019年度からの3年間、「上司の変革」に取り組んでまいりましたが、2022年度は再度、従業員本人の意識変革に立ち戻り、自分自身の成長・活躍の機会を躊躇することなく選択してほしいという思いで進めています。
一般スタッフ層が自分の無意識のバイアスの存在を認識し、会社や上司から与えられた機会チャンスを生かし、自らの意思で活躍できるようになること。これがアンコンシャス・バイアス研修導入の最大の目的です。
大同生命保険では、性別/コース/年齢/環境の背景などに関わらず、全ての従業員が強みや個性を発揮しながら、挑戦・成長・活躍し、仕事にやりがいを感じながら実りのある充実した人生を実現することを支援しています。アンコンシャス・バイアスのコントロールについても、定着に向けて継続して取り組んでまいります。
質疑応答
大隅:
アンコンシャス・バイアスの数値化について、数値化の良さ・重要性をどのように考えていらっしゃいますか。
谷村:
数値化されると、気づきの効果が高いと思います。中には自分の測定結果が刺激的だった人もいると思いますが、数値化はとても大事だと考えます。
実は学習前には、バイアスがなくなることがゴールであると考えて「IATテストの結果は練習や努力で変化するのか」とチェンジウェーブ社にお聞きしたことがあります。答えは「変わらない」ということでした。もちろん、だからこそコントロールの必要があるわけですよね。
大隅:
アンコンシャス・バイアスの学習や、そのコントロール方法が定着してくると、社内のコミュニケーションはどんなふうに変わりましたか?
谷村:
アンコンシャス・バイアスという言葉が、役職者の間で共通言語になってきていると思います。例えば「両立をしている人ってこうだと思うのだけど、これってバイアスかな」という投げかけができるようになりました。周囲からも「それちょっとバイアス入ってますよ」と言われるシチュエーションなどもあり、そういう会話ができるようになっていることで、バイアスを意識する場も広がっていくと思っています。
大隅:
特に一般職の方が、自分にバイアスをかけている場合もあるのではないかとのご発言がありました。自分自身にかけているバイアスはどのような方法で解消していけるとお考えですか。
谷村:
実際、女性のキャリアアップ・ガイダンス等の場で「私が役職者になるなんてまだまだ無理です」と聞くことが多くあります。ですが男性の場合は「2年歳上の先輩が2年前に役職者になったから、きっと自分もそろそろかな」と、役職者になることに疑問を持っていない気がします。やはり女性の方が、自分で自分にブレーキをかけてしまっているようなので、今回、アンコンシャス・バイアスの研修を行った方がよいという判断に至りました。
測定・分析を経て傾向を掴み、出てきた結果によって、また来年度以降の施策を考えていかなければいけないと思っています。
大隅:
既に上司力の向上には取り組まれておられますので、女性社員に対する一つの選択として学習機会があり、「アンコンシャス・バイアスが自分の可能性を狭めている」という気づきが生まれれば、属性に関わらないキャリアアップにつながっていきます。組織全体でアンコンシャス・バイアスへの対処もさらに進むのではないかということですね。
ダイバーシティ推進は本当に地道な歩みしかないと思いますが、大同生命保険様の継続的な取り組みを伺えて大変勉強になりました。また、弊社がそのスタートに少しでもお役に立てたら嬉しく思います。
本日はどうもありがとうございました。
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