D,E&I推進のための体系的な取り組み 〜「アンコンシャス・バイアス」をフックに〜 三井化学株式会社のデータ活用と施策立案事例
ダイバーシティ推進は昨今本格化してきた人的資本経営の土台でもあり、既に多くの企業で取り組まれていますが、地道に、長年取り組む必要があるため「体系的に進めるのが難しい」「施策がマンネリ化してきた」という悩みも出てきているようです。
こうした一方で、政府が示した「女性版骨太の方針」では女性の育成・登用が明記され、パイプライン構築も含めた施策実施にはスピード感と結果が求められています。
これらを組織内で納得感を持ち進めていくには何が必要なのか。
本レポートでは三井化学株式会社の安井直子様にお話を伺い、7年に渡るお取組みをご紹介いただきます。聞き手はチェンジウェーブ上席執行役員の鈴木富貴です。
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登壇者のご紹介
インタビュイー
三井化学株式会社 人事部
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョングループ
グループリーダー 安井 直子様
※肩書は2023年6月当時
インタビュアー
株式会社チェンジウェーブ
上席執行役員 鈴木 富貴
2030年、女性管理職比率を15%にするために必要な「エクイティ」の考え方
2030年に向けて事業ポートフォリオの変革によるビジネスモデルの転換に取り組んでいる三井化学。ダイバーシティは、経営目標達成のための手段の一つです。
行動評価軸の一つには「多様性(ダイバーシティ)の理解」を入れ、公平(エクイティ)、包摂(インクルージョン)の視点も反映するなど、社員がダイバーシティの意義・必要性を単に「理解する」だけでなく、「行動に結びつけられる」ように考えられています。
三井化学が女性活躍推進の取り組みに本腰を入れ始めたのは2016年。当時1.7%だった女性管理職比率は、2023年度(第4次目標)の時点で7%になろうとしており、長期的には2025年度に10%、2030年度に15%を目指しています。
仕事と家庭の両立支援策は法定以上で、充実した制度がありました。しかし、〝管理職に登用されている時期〟を男女別に調査したところ、女性の登用率が低いことに加え、登用され始めるタイミングも女性の方が遅いという結果が出たそうです。
安井直子様 (以下、安井様)
結果を見たある管理職の方が『この世代の女性は子育てがあるから仕方がないよね』と言いました。仕方ない、が当然だとして済ませてしまったら、女性の登用は進みません。
女性に力仕事は難しいから仕方がない、有害物質を扱う作業は女性にはさせられないから仕方がないなど、これまでの慣習、アンコンシャス・バイアスに従うと〝女性側に問題がある〟となってしまいがちです。しかし、〝現場の側に問題があるから女性が入れない〟と考えることが必要ではないか、それがエクイティ(公平性)につながるのではないか、そう安井さんは考えたそうです。
ポイント
目標を定め、課題となる箇所を掘り下げ。現状とのかい離を可視化した
アンコンシャス・バイアスを意識して女性登用を進める
具体的な取り組みの一つとして、2018年からは毎年、新任ライン長対象研修の研修にアンコンシャス・バイアス学習を取り入れました。
また、2021年からは登用に権限を持つ部長層へもアプローチしています。
部長層へのアンコンシャス・バイアス研修
Step1「ANGLE」(バイアスのラーニングツール)を受講
部長、室長、研究所長、工場長が受講。自身のバイアスに気づいてもらうと共に、職場にあるバイアスについて考える機会とする。 (ANGLE=受講者のアンコンシャス・バイアスを測定・数値化し、可視化するe-Learningツール。チェンジウェーブ提供)
Step2 DE&Iとアンコンシャス・バイアスに関する研修を実施
ANGLEで分析した部門ごとのバイアス傾向を示し、なぜ自部署で女性登用が進まないのか、ご自身がとるべきアクションについてディスカッションを実施。(チェンジウェーブ企画・運営) こうした研修に加え、女性登用に向けた具体的な過程も示し、実行されています。
Step3 部長層に対してヒアリングを実施
全女性社員の登用可能性有無やポジション、育成について聞く
Step4 候補者メンタリング
Step3で推薦された女性社員に社内メンターをマッチングする
ポイント
目標達成のために効果的な層、始めやすい層からアンコンシャス・バイアス学習を開始
既存の研修や会議体報告に加えるなど、受ける側のハードルを下げて「やりやすく」する
部長層の意識が変わり、管理職候補者の顔ぶれが変わった
安井様:
「研修では部長同士、階層の同じ方々が集まって話したというのが大変効果的でした。マネジメントの仕方や評価・登用などの具体的な話も出て、雰囲気が変わったのを実感できました。」
研修以前、管理職候補者として挙がってくるのは自分の希望をきちんと主張できるような、強いタイプの女性ばかりでした。ところが、研修後には、業務や実績を見て適材と判断した人が少し引っ込み思案なタイプであったりすると、「彼女を登用するために彼女がやる気になるような機会を作れないか」「彼女にメンタリングをしてもらえないだろうか」などと上司側から依頼されることが増えたとのことです。
安井様:
それまでは、昔ながらというのか、時間を問わず仕事に全力をかけるような人材が登用されがちでしたが、研修後には時短勤務をしている人なども登用の対象として上がってくるようになっています。
アンコンシャス・バイアス研修を始めた際には『エクイティ』という言葉を認識していたわけではありませんが、今振り返ると、管理職が自らのバイアスに気づいて行動を変え、環境を整えることは、まさに『エクイティ』に資する取り組みだったと思います。
アンコンシャス・バイアス学習単体ではなく、それが評価・登用にどうつながっていくのか、マネジメント層がすべきことは何なのか、ストーリーがつながったことで行動変化も加速されたのではないでしょうか。
ポイント
何のためにやるのか、何にリンクするのか、施策・研修の目的がストーリーとして理解されたことで、納得感が高まった
「風が変わった」
社内に見えたアンコンシャス・バイアスへの対応と変化
三井化学・部長層のアンコンシャス・バイアスデータは、部門によってかなり違った結果が出ました。女性が少ない部門では性別バイアスの影響が強く、既に女性が活躍している部門では性別バイアスの影響が弱いという傾向でした。
安井様:
このデータは、部門ごとに〝当たり前〟が違うことを表したと言えます。各部門との対話においても、その認識を持って話をするように心がけました。
バイアスの話をする際にもデータや数字で説明すると、納得感を持ってもらいやすいとのこと。部門ごとに〝何が腹落ちするか〟を考えながら情報提供しているそうです。
その他、女性自身にもバイアスがあることが見てとれたため、心理的安全性を高めた女性同士の交流会から声を上げてもらうことや女性のロールモデルを意識的に見せる場を作ることなどにも取り組んでいます。
長くダイバーシティ推進に取り組む必要性とは
「ダイバーシティ推進は大変であるがゆえに、一度旗を下ろしてしまうとすぐまた元に戻ってしまう。どんなに進んだと思っても、ずっと言い続ける・取り組み続ける必要がある」と話す安井さん。10年ほど前、北欧の視察で学んだことだそうです。
安井様:
毎年コンスタントに施策を打つことを心がけています。またこの時期がやってきました、という感じで、部長層が参加する会議の場でANGLE受講とヒアリングの案内を行います。新任のライン長向けにも〝必ずこの研修を通る〟と、毎年の決め事としておいておくなどし、定期的に実施しやすい仕組み作りを行なっています。
D,E&Iの意義や期待について社長が自らの言葉で発信し、メッセージとして社員に伝えてくれていることも推進には大きな力となっています。
チェンジウェーブでは、社内のハレーションを防ぎつつダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンを進めるためには幾つかの重要ポイントがあると考えています。
- 目指す姿と現状課題を数字やデータで表してやりどころを提示する
- 事業執行層がコミットする仕組みを作る
- 部門ごとの違いを理解して、腹落ちにつながる説明をする
- 評価・登用モデルを多様化し、多様な管理職像の構築を目指す
- アンコンシャス・バイアスの理解・浸透と見える化を行い、学習を継続する
これらを意識した三井化学のD,E&I推進施策は、貴重なヒントに溢れていました。
安井様、インタビューへのご協力、ありがとうございました!