ソフトバンク 源田泰之氏が語る 真の女性活躍に必須の要素
2022年のコーポレートガバナンス変更、2023年の政府「女性版骨太の方針」発表など、多様性推進・女性活躍推進のフェーズは明らかに変わってきています。
企業にとって必須の取り組みであることは認識されながらも、現実には非常に複雑な問題を連立方程式で解いて行く道のり。事業変革とも密接に関わる問題であり、大変難しいのが実情です。
本レポートでは、経営陣が「変革(=女性活躍推進)」に強くコミットされ、スピード感を持って取り組んでおられるソフトバンク株式会社において、変革の仕立て役、そして仕掛け役である源田泰之様にお話を伺います。
聞き手は株式会社チェンジウェーブ代表取締役社長・佐々木裕子です。
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登壇者のご紹介
インタビュイー
ソフトバンク株式会社
コーポレート統括 人事本部 本部長
兼 総務本部 本部長 兼 Well-being推進室 室長
源田 泰之 様
※肩書は2023年6月当時
インタビュアー
株式会社チェンジウェーブ
代表取締役社長 佐々木 裕子
ダイバーシティ推進委員会ではなく〝女性活躍推進委員会〟である理由
2021年、ソフトバンクは女性活躍推進委員会を発足させました。
人的資本の最大化は会社の成長につながる、という考え方がその根本にはあり、「強い組織にするためにはD,E&Iの考え方が必要である」ということを明確化した形です。
しかしなぜ「D,E&I推進」ではなく「女性活躍推進」としたのでしょうか。
源田泰之様 (以下、源田様):
明確な課題をまずは解決する必要があると考えたからです。
業績評価やコア能力は男女でほぼ変わらないのに、リーダー層への登用認定、昇格スピード、管理職の男女構成比については大きな差があることを目の当たりにし、本当の意味での平等、適材適所が実現していないことを示しているのではないかと思いました。もちろん我々の取り組みの本質にはD,E&Iがありますが、最初から間口を広げすぎると、既に顕在化している足元の課題がぼやけるのではないかと判断し、女性活躍推進を一歩目に据えました。
本気で推進するための様々な仕掛け作り
ソフトバンクの女性活躍推進委員会には、目に見える変化を生み出すためのポイントが幾つもあります。以下にご紹介していきましょう。
取り組み体制の構築と運営ガバナンス~各部門のトップが一枚岩で推進するオーナーシップと外部の目
社長を委員長に、各組織を統括する役員で組織する〝女性活躍推進委員会〟と、本部長などの推進メンバーで組織する〝推進会議〟を設置。どちらにも外部の有識者をアドバイザーとして組み入れ、昨今のトレンドや事例を学ぶと共に客観的な「外の目」を有効に機能させる
数値目標を明確に設定、道のりを示す
2035年度までに女性管理職比率を20%にするという目標を設定
源田様:
当社の全社員における女性比率から考えると非常に高い数値です。管理職になるのが『活躍』なのか、逆差別ではないか、というような意見もありましたが、まずは何らかの指標、目標を置き、進んでいくことで、課題や打ち手がより明確になると考えています。
現状と進捗を「数字」で見える化し、共通認識を醸成
全社アンケート調査などで現状のボトルネックを可視化。職種、部門ごとの課題や現状、進捗などを女性活躍委員会で報告。
他にも、女性社員と経営層のラウンドテーブルで一次情報を取り込むこと、女性向けのワークショップを行うことなど、様々な施策実施と発信で共通認識を醸成。
佐々木:
私は女性活躍推進委員会にアドバイザーとして参加させていただいていますが、顕在化している課題について徹底的なデータ分析をされていますね。
また、素晴らしいと思うのは、経営陣の皆さまがラウンドテーブルなどを実施されて、きちんと現場の声に触れておられることです。定量データと貴重な一次情報の両方をお持ちになるのは、土台を築かれるうえで、大変重要だったのではないかと感じました。
源田様:
これらの施策を〝会社がやっていること〟ではなく、自分ごととして捉えてもらうために、取り組みの熱量を落とさずに継続的にやり続けることが大切だと考えています。トップレイヤーの巻き込みなど、やっていることの方向感はズレていないという実感はありますが、今後は社員をもっと巻き込んでいけるよう、新しいトライも必要です。
現場に見える取り組みの成果と外部からの評価
取り組みを始めて約2年 (※2023年5月現在)、ソフトバンクで女性活躍推進を強化していることを9割以上の社員が「知っている」ところまできました。アンケートの結果などを見ても「仕事のアサインに男女差を感じなくなってきた」と改善傾向にあり、属性を問わずキャリアアップにつながるような仕事の任せ方がされてきているという反応が届いています。
また、これまでは女性活躍の施策、例えばワークショップやアンコンシャス・バイアスの研修などについては、人事が主導していましたが、現在は事業部門発の施策や分科会、ボトムアップの動きも出てきました。全社一律でなく、その部門の特性・課題に応じた動きが出ていることに源田さんは大きな変化を感じているそうです。
源田様:
例えば、女性社員の比率が低い部署と高い部署では必要になる手だては変わってきます。リアルに女性活躍を進める、というのはこういうことだと思います。エンジニアのような女性社員が比較的少ない部署でしたら、部門横断でつながりやメンターを作るとか、法人営業やショップスタッフのようなお客様との関係が大事な部門では、お客様と共に働き方を考えていくとか、具体的な打ち手が自発的に出てきているというのはとても良かったと思います。
佐々木:
女性活躍推進委員会には全トップの方々が入られていますから、部門で取り組みをしようとするとき、そこにスポンサーシップが明確にある。仕掛けとして大変重要ですし、素晴らしいですね。
また、私はバイアスの研究に長く取り組んでいますが、ジェンダーバイアスという1つのバイアスに着目すると、他のバイアスにも気づきやすくなります。女性活躍を入口に、多様な人材が価値を出す組織づくり、事業モデルを作っていく、というのはまさにソフトバンクさんが体現されていることではないでしょうか。
働き方、事業モデルの再設計 今後のチャレンジに向けて
女性活躍推進は、働き方改革ともつながっています。長時間労働を是正して、短時間の勤務でも成果の出る働き方を模索すること、多様なリーダーが存在する環境づくりが必要です。
今後、ソフトバンクではどのような取り組みを考えているのでしょうか。
源田様:
人的資本の観点からも、今、経営層と議論を重ねています。
働き方改革を何のために行うかというと、つまり〝選ばれる会社になるため〟だと考えます。外にいる人からはここで働きたいと思われ、中にいる人からはここで働き続けたいと思われる。良い人材が集まってきてくれて、会社が成長するための土台になるのではないかと。そのためにもソフトバンクはどういう会社なのか、定量的にデータを取り、開示していく必要がありますし、それに対する施策をロードマップとして出していきたいと考えています。
もちろん、ジェンダーの取り組みの次には多様性の拡大があります。障がいの有無、国籍や年齢などに関係なく誰もが活躍できる社会・会社を作っていくのが大きな目的です。
女性活躍推進とは事業の価値創造モデルの変革であり、組織全体の働き方や育成・登用のモデル変革です。加えて、サステナビリティに向けた経営変革そのものです。
ソフトバンク様が圧倒的なスピードで女性活躍を進めていく背景には、変革に向けた経営陣の本気と事業部門のオーナーシップが大きく影響していることを感じました。
源田様、インタビューにご協力くださいまして、ありがとうございました!