
女性活躍は次のステージへ NECグループが挑む、インクルーシブな組織づくり
女性活躍を起点としたダイバーシティ推進が各社で進む一方で、「次のステージ」へと進むためには、個人の意欲喚起だけでなく、組織全体のカルチャー変革に向けたアプローチが欠かせません。
NECグループでは、多様性(Diversity)の発揮にはインクルージョン(Inclusion、包摂)が重要であるという考えから「I&D」とInclusionを前に置いた表記でその大切さを示し、取り組みを進めています。
本記事では、
「Inclusion」実現にはどんな施策が必要なのか、
NECグループの考え方とNECソリューションイノベータでの取り組みを例に
誰もが持てる力を発揮できる環境づくりと多層的なアプローチについて考えます。
目次[非表示]
インタビュイー

日本電気株式会社(NEC)
ピープル&カルチャー部門 Chief Diversity Officerオフィス
シニアマネージャー
佐野 寛子 様
※肩書は取材当時
インタビュアー

株式会社チェンジウェーブグループ 執行役員
鈴木 富貴
多様なリーダーを育成するための女性活躍は
経営変革につながる
女性活躍推進法の10年間延長が物語る現状
まずは、現在の日本における女性活躍推進の現状を見てみたいと思います。
現在、管理職に占める女性の割合は12.7%にとどまっています。2025年度末までの時限立法だった「女性活躍推進法」の10年間延長が提言されていることからも、引き続き取り組んでいく必要がある課題であることは明白です。
各企業で施策が進み、少しずつ変わってきていますが、加速するためにはトリガーになるものが必要です。しかしながら、人事のご担当者からは、「管理職候補の女性の昇進意欲が向上しない」「育成する環境が整わず十分な経験が積めていない」というご相談をいただきます。
加えて「もう、女性だけに焦点をあてる必要はないのでは」という社内の反応に難しさを感じているという声もあります。

管理職候補の女性115名に「なぜ躊躇するのか」と聞いてみると、一番は「自信がない」ということが理由でした。
さらに、管理職に対するイメージ…例えば「長時間労働」「突発対応が常時求められる」「ビジョンを示し、率いていかなくては」といったものが強く、「期待してもらえるのは嬉しいが、『能力がない』という判断をされるのでは」という不安を抱える方も多いこともわかりました。
まずは、管理職に対する心理的なハードルを下げること、会社視点・組織視点を持って意思決定するイメージが持てるようにすることは大切だと言えます。
ただ、女性活躍が目的であるように見えるのは、かえって推進力を下げるのではないでしょうか。
女性活躍推進は、組織変革そのものです。
経営層も含めて、同質化から抜け出し、人的資本を最大化していくことこそが、変革の牽引力になっていくからです。
女性を対象とした施策だけでなく、機会提供や評価軸、登用していく管理職や上長のバイアス対処など、多層的に展開し、組織全体の変革に地道につなげていくことが必要ですし、そうした意味で、NECソリューションイノベータ様の取り組みをぜひご紹介したいと考えています。
目指すのは、誰もが持てる力を発揮して
活躍できる公平な環境を作ること
一点突破で進まず、重層的なアプローチを試みた
NEC佐野様(以下、佐野):
日本電気株式会社チーフダイバーシティオフィサー室の佐野と申します。よろしくお願いします。
実は、2025年3月までNECソリューションイノベータに在籍し、I&Dを推進しておりましたので、本日はNECソリューションイノベータでの取り組みを中心にご紹介させていただければと思います。
まず、I&Dの入り口としてジェンダー平等施策に取り組んだところからお話しします。
我々が心がけたのは、女性活躍推進だからと言って女性だけを対象に取り組むのではない、という点でした。
男性の働きやすさ・育休取得促進であったり、評価者の意識改革であったり、様々なターゲットに対して重層的にアプローチすることで、組織の文化というか、風土を変えていきたいと考えたからです。
そのためのキーワードになるのが、アンコンシャス・バイアスでした。
それぞれが持つアンコンシャス・バイアスに気づいていただき、思い込みを外していく、これが重要であると考えています。

提供:NECソリューションイノベータ
管理職候補の女性が持つ「家庭との両立」「管理職」へのアンコンシャス・バイアスを外す
佐野:
バイアスの中でも、管理職候補の女性が持つ、自分自身に対するバイアスはまだまだ根強いと感じています。家事や育児など「自分がちゃんとやらなくては」という意識にとらわれすぎて、自分自身のキャリア構築に制約をかけてしまいます。
また、昇格したくない、という言葉には「○○さんのようにはなれない」「ああいう管理職にはなりたくない」という気持ちが込められているように思います。
「昇格=○○さんのようにならなければならない」という、ある種の責任感というのか、思い込みが強くありますので、「必ずしもそうならなくていい」という気づきを促していく必要があります。
このほか「あの人のようになりたい」というロールモデルがいない、というのも良く言われますが、チェンジウェーブグループの研修では「パーツモデル」という考え方を紹介してもらいました。周囲の方の良いところを部分的に取り入れながら自分自身のなりたい姿を明確にし、道を切り開いていくということもできるのではないかと思います。
ですから、「できない」または「やらなきゃ」という思い込みがないか、今ある枠の中で固定的に捉えていないか、両立できる方法を考えれば良いのではないか、といった気づきを促すことが必要でした。
鈴木:
そうですね。そうした「捉われ」のようなものに対処していきながら、フィールドワークでは、より上位層の視点・視野に触れていただき、登用へのハードルを下げていった、という流れでしたね。
佐野:
各層において悩みが異なりますから、その課題に寄り添い、乗り越えていただくように研修の全体設計を構築しています。
また、それぞれの参加者を横断的につなぐ形で、女性同士のネットワーキングも実施しております。鈴木さんにモデレーターをお願いした国際女性デーのイベントでは、繋がりを通じて文化を変えていく行動が生まれたら、という仕掛けをしました。
鈴木:
スポンサーになった役員の参加も含め、階層を越えた意見交換があり、貴重な場だったと思います。皆さんが共通して持っている「変えたいこと」が出てきた一方で、「こんな乗り越え方があるよ」というアドバイスが随所に見られました。
佐野さんは、研修参加者に対してどんな変化を感じていらっしゃいますか?
佐野:
女性自身が変化から逃げていると思える部分もあります。ただ、施策を打つ中で「昇格に対して気負いすぎていた」とか「考え込みすぎて不安になっていた」などの気づきが生まれる機会が増えてきたのは実感しています。
「まず、○○からやってみよう」というような小さな一歩が生まれています。
鈴木:
研修でも、本人が気づく、本人が決める、というように、未来に向けて自分が決めていけるように設計しています。
・制約をかけていたのは自分自身だった、と気づいた
・管理職は遠い存在のように感じていたが、それ自体がバイアスだった
・「できない」から「自分のやり方でマネジメントする方法を考えよう」という意識に変わった
といった声が研修中にも挙がりましたが、管理職になること自体が目的ではありません。業務を改善し、やりたいことをやるためにポジションにつくのは大切な選択肢である、とお話ししたとき、皆さんが深く頷いてくれたのが印象に残っています。
佐野:
おっしゃる通り、自分と対話をして腹落ちをしてもらうこと。これが非常に重要で、必要な過程だと思っています。
女性活躍が最終目的ではなく、インクルーシブな文化を作って行くということが目的ですので、その考え方が広まっていくように、と考えています。
マインドセット×フィールドワーク
選抜型研修とスポンサーシップ・プログラムで成長支援
■主任層:選抜型研修
参加者自身が「家事や育児は女性が主に担う」「ライフイベント期に重要な仕事はできない」といった枠を自分で自分に課していないか、気づきを促す。
その上で、自律的なキャリア構築に向けて
①ありたい姿を描く
②ご自身の軸となるものや強みを改めて点検する
③フィールドワークで、管理職の視点を体感する
ステップを踏み、自分らしいリーダーシップを発揮する一歩につなげる。
グループワークを多く取り入れ、参加者のつながりを広げる、という目的もある。
■課長層:選抜型研修×フィールドワーク
管理職としての悩みを分解して解決への道筋を探り、さらなるキャリアを考える場を設ける。
フィールドワークを通じて上位職との接点の創出と気づきを促す。
■部長以上:スポンサーシップ・プログラム
役員がスポンサーとなってシャドウイングを実施。視座の引き上げを行い、社内外の経営者との接点を持つことで、新たな刺激を受け、成長を加速させる。
■ネットワーキング・プログラム
研修参加者同士がつながり、変化に向けた行動を生み出せるよう、年1回実施。
評価者向けのプログラムでバイアスを測定・可視化。
「自分にもある」という気づきから、建設的な会話が生まれた
佐野:
続いて、評価者向けの取り組みをご紹介します。
評価者の持つアンコンシャス・バイアスも根深い課題です。
弊社の中でよく見られたのは、本人に確認することなく、本当に悪気なく「大変そうだから責任あるプロジェクトは難しいだろう」「やりたくないかもしれない」などと決めてしまうことでした。
また、若手や女性に対して「厳しいフィードバックができない」という声もよく聞かれました。性別や年齢のバイアスによって公平なアサインを阻害していないか、アンコンシャス・バイアスの是正を促す仕組みを構築していきたいと考えました。
その際、アンコンシャス・バイアスが可視化できたというのは非常にインパクトがあったなというふうに思っております。「バイアスは、ない」と思っている状態が一番危ないと感じていたからです。
まずは、ご自身がバイアスの存在に気づいてもらうということ。それに気づいた上で、どんなふうにコントロールすればいいのか、職場でどうすればよいのか、ワークショップで学んでもらうようにしました。
受講者のバイアスレベル分布
アンコンシャス・バイアスプログラム「ANGLE」で測定

鈴木:
測定するテストとバイアス学習、ワークショップはチェンジウェーブグループが実施させていただきました。
当社では「バイアスは判断を早くするための脳のショートカット機能であり、100%悪いものではない」とお伝えしていますが、「糾弾しない」というのも受け止めていただくうえで必要な要素です。
また、感情論でなく、データという客観性があることは納得感を高め、議論の材料や観点を提供できます。管理職のワークショップは自社・自部門の傾向を理解したうえでどう行動するか、同階層の方々と具体的に考えられるのが良い、という反応をいただきます。
佐野:
「誰にでもある」と伝えていただいた結果、バイアスに関する会話が社内で普通に行われるようになったことは成果と言えるんじゃないでしょうか。互いに「それ、バイアスじゃないかな?」と話せるようになったことが、大きな変化だと思っています。
鈴木:
貴社では、研修だけに終わらせず、評価の際にもチェックをしていますね。
佐野:
はい、当社データでは、性別バイアスが比較的強く出ていました。
良かれと思って成長機会を阻んでいないか、過小評価をしていないかどうか、セルフチェックをする仕組みを入れるようにしています。
他にも、選抜、登用、アサインメント等においてもバイアスが入り込む隙というのはありますので、根気強くリマインドする必要はあると思っています。
ただ、社内で理解も深まってきていますので、相互チェック、人事によるチェックなどができるような環境作りも進めています。
こうした施策の積み重ねによって、適切なアサインメント・評価、公正な登用を実践していきたいです。
鈴木:
しかし、何を基準に公平・公正な評価というのか、難しい部分があると思います。どんな工夫をされていますか。
佐野:
それで言うと、ひとつ追い風になっているのが、ジョブ型の導入ですね。
職務の定義が明確になされるようになったことで、性別と関係ない世界が生まれているように思います。
女性だけでなく男性も「今までの働き方が苦しかった」という部分はあると思いますので、職務の定義や管理職要件などが明確になったことで、みんなにとってよりよい世界が来るのではないかと思っています。
提供:NECソリューションイノベータ
質疑応答
弊社に企業様から良くいただく質問に対して、佐野様に答えていただきました。
Q1. 役員はアンコンシャス・バイアスの調査に協力的でしたか。
我々が非常に恵まれていると思うのは、トップの理解が非常にある環境だということです。バイアスの調査の際は、役員にも我々が目指す姿について伝え、そのために必要であると伝えました。
これまで経営層に対しても地道に伝えてきた結果だと思います。
また、NECグループはテクノロジーの会社ですので、測定や数値に抵抗がない、むしろ可視化できるということに関心を持てる環境があることも、追い風になっていると思います。
Q2. 共通言語となるバイアスに関する取り組みは、やはり管理職から行った方がいいのか。それとも、社員全員に浸透させることが優先なのか、どちらでしょうか。
今、組織の中で何が課題になっているのかによるとも思いますが、評価者を変えるということは非常にキーになると思います。なぜなら、女性だけが変わってやる気になったとしても、評価者が変わっていなければ、ストッパーになる恐れもあります。
その組織で課題を解決できる層、ということで管理職から始める、またはより上位職から始めていく、というのも一つの手ではないでしょうか。
NECソリューションイノベータでも、かなり上位の役員を含めて実施していきました。
Q3.人事として様々な施策を同時並行で進める中で、意識していることはありますか。
私自身も、やりたいことがたくさんあってどうしよう、と思うことがあります。
ただ、組織の課題に対して、どう優先順位をつけていくかということではないかと考えています。
そして、女性だけを対象に取り組んでいくような「一点突破」では、苦しい部分がありますね。組織の文化を変えるというところにはたどり着けないと思います。
一の矢を打ってみて、隙あらば二の矢、三の矢を打って、なんとか目標達成に持ち込んでいく感じでしょうか。
また、それには社員の声を聞くことが非常に重要だと思っています。我々が気づいていなかった視野や示唆をもらえることが非常に多いです。
ただ、何が正解のボタンなのかはわかりません。ただ、課題が見えているのであれば、何もしないよりは、絶対に進んでみたほうが良いですよね。より良い明日に繋がりますから。

提供:NEC
鈴木:
ありがとうございます。具体的で、大変示唆に富んだお話を伺うことができました。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
佐野:
女性の活躍というのはひとつの通過点ですし、まだまだできていないことは本当に多いと感じています。
ただ、我々自身も改善を積み重ねながら「インクルーシブな文化を作っていく」ことに向かって走っていきたいですし、野望ということで申し上げますと、NECグループのみならず、社会に向けて知恵を出し合いながら、日本全体で良くなるように進めていけたらと思っております。
鈴木:
本日は本当にありがとうございました!






