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白河桃子先生講演 「2022年からの男性育休新制度に向けて」

2021年6月、改正育児・介護休業法が成立し、男性の育休取得が注目されています。

この大きな節目に、企業はどのように対応していけばよいのか。本セミナーでは、働き方改革やダイバーシティ経営など幅広いテーマでご活躍中の白河桃子先生にご登壇いただき、男性育休新制度に向けて企業の実態と課題の打開策についてご講演いただきました。

聞き手はチェンジウェーブ執行役員・鈴木富貴です。

※本記事は、2021年10月に実施したオンラインセミナーを記事化したものです。




制度で起きる変化は
すべての社員の「ウェルビーイング」に関わる


鈴木:

今般の改正育児・介護休業法の成立を受けて、男性の育児休業取得率が上昇すると期待されています。ある調査では就活層の98%は賛成だそうですが、一方で、企業の経営陣の24%は賛成していないという結果が出ています。この認識ギャップを企業はどのように捉えて対応していけばよいのでしょうか。今回は白河桃子先生にお話を伺ってまいります。


白河桃子様(以下、白河):

企業には、この変化をいかに取り込み、企業価値につなげていくかということが問われていると言えます。

具体的に対処すべき課題を見ると、まず、仕事と育児の両立支援という意味では、多くの企業で充実した制度が既にあります。ただし、その制度利用者は多くが「女性」であり、男性が制度を利用することはこれまで想定されていませんでした

今回の法改正で男性が制度利用者になると、男性が従業員の7~8割を占める企業もありますから、抜本的な見直しを迫られる場合もあるでしょう。

男性が育休を取得すると、職場によっては多くの人員が抜ける状況が発生します。その際に代替要員は確保できるのか。確保できない場合は、周囲のサポート体制を構築する必要があります。

重要なのは、その際に、サポートする側(例えば、子育てを終えた人、独身の人、子供がいない人など)に仕事のしわ寄せがくるという現実を折り込んで制度設計をする必要があるということです。独身・子なしだからといって働き放題ではありません。すべての人にプライベートはあります。育児をする社員だけでなく、すべての社員のウェルビーイングに企業が向き合うことが大切です



男性の育児休業取得は、「経営課題」


鈴木:

では、企業はまず何から始めたらよいでしょうか。


白河:

人事部など、制度設計者の立場であれば、自社の中に、男性で育児休業を取得する可能性のある人(対象者)がどのくらいいるか特定してほしいですね。そして、対象者が制度を利用するとどのくらい売上に響くかを試算し、これは経営課題ではないかということを、経営層に認識してもらうことが大切です。


鈴木:

これまでなぜこの問題が議論されてこなかったのでしょうか。


白河:

アンコンシャス・バイアスが強すぎるのだと思います。

女性は子育てを優先するもの」という強い固定観念が働くと、女性は職場での働き方を工夫して当然だと思われ、両立支援制度を整備する企業が増えます。現在では女性の時短取得者は4割を超えると言われています。

そしてそのしわ寄せは、主たる役割が子育てではないと考えられてきた男性が引き受けることが多く、企業内ではそうした業務分担が男性の長時間労働の一因にもなっています

けれども、現代の夫婦は共働きが当たり前。子育ても夫婦ともに取組む方向にシフトしており、男性の育児参加を実現するためにも、抜本的な働き方改革が求められています



「仕事化」が現場レベルを動かす重要ポイント


鈴木:

先進企業では、具体的にどのような取り組みや工夫がなされていますか?


白河:

公務員を想定したものではありますが、まずは厚生労働省のリーフレット及び内閣人事局の取得計画フォローシートが参考事例となるので、企業担当者の方にはぜひご参照いただきたいです。

また先進企業事例としては、男性育休を2年連続で100%達成されている株式会社積水ハウスを挙げたいです。積水ハウスでは、家族ミーティングシートというものを導入しており、育休中の職場での仕事分担(サポート体制構築)はもちろん、家庭内の家事分担も細かに設計されており、シート提出には妻のサインも必須です。育休取得後には子どもの写真付き報告書も提出する必要があります。

こうして仕事化していくことで、タスクが明確になり、育休取得の実現可能性が上がるのだと思います。これは制度設計の重要なポイントで、ただ育休を取れという号令をかけても、現場レベルでは育休取得は進みません


鈴木:

仕事化が育休推進のカギになるのですね。一方で、育休を取得してこなかった世代からは、「なぜ、男性が育休を取る必要があるのか?」といった疑問が寄せられそうですが、この点はいかがでしょうか。


白河:

男性が育休を取得した方がよい理由はたくさんあります。

第一には女性の産後うつ防止です

産後うつは10人に1人が発症すると言われており、発症のタイミングも出産から2週間後がピークであるというデータがあります。妻が最も脆弱な時に、夫のサポートがあった方がいいことは一目瞭然であり、このデータは経営層にも理解しやすいと思います。

また、企業が直面している働き方改革の推進、社員のエンゲージメント向上、採用力の強化という側面においても、男性育休に対応することは企業価値の向上に寄与します。

現在の若い男性は、7割以上が育休取得を希望するという調査結果があり、企業内にその体制が整っていることは入社を決めるにあたっての大きな魅力となります。また、育休取得という形で、会社にライフを応援してもらえると、社員のエンゲージメントは高まると言われており、離職を防止するだけでなく、パフォーマンスが上がるという効果も期待できます。育休取得が属人化していた仕事を見直すキッカケとなり、それまで進まなかった働き方改革につながったという報告もあります。


鈴木:

男性の育休推進が企業価値の向上につながることを明解に示していただきました。

続いて、ご参加の方からの質問にもお答えいただけますか?
「育休取得者とそのサポートする側のコンフリクトについて、どんな対応が有効でしょうか」という質問です。


制度利用者とサポート側のコンフリクトに対処する


白河:

制度利用者と周囲(サポート者)の間にコンフリクトが起きていることは事実です。これは昨年、私自身が大学院の研究テーマにもしたのですが、育児休業制度を利用していない男女300名にインタビューをしたところ、制度に不満を感じている人は2割、負担に感じている人は3割にのぼり、背景には制度利用者の増加と制度の充実がありました。

取材した中では、サポート者に対して、短期的な業績評価の中で金銭的な手当を行ったり、毎月の給与に割増手当として支給したりしている企業もありました。制度利用者が少ない時には、「お互いさまの精神」や気遣いで済んでいたかもしれませんが、制度利用者の増加が今後も見込まれる中では、制度設計にサポート者への目に見える配慮を組み込むことは重要と言えるでしょう。


鈴木:

これまでサポートは「助け合い」という文脈で語られることが多かったと思いますが、企業が一歩踏み込んで対応することで、体制構築が進みそうですね。


育休は社員のキャリア自律を高める制度


白河:

男性育休の先進企業である積水ハウスの社長が、「育休は社員のキャリア自律を高めるための制度」という発言をされており、素晴らしいと思いました。育休を取得することによって、男性がライフも含めたトータルの人生でキャリアを考えるようになる。よく企業から「自律的な社員」を求める声が聞かれますが、まさに育休取得はそのキッカケになると思います。

なぜ企業が、社員のライフまで面倒をみるのかという意見もあるかもしれませんが、今は企業が社員一人ひとりのウェルビーイングを支援する時代。社員の幸福度UPに投資する企業は、離職率が減るだけでなく、生産性が上がり、創造性に至っては300%アップするというデータもあります。コロナを機に進んだ柔軟な働き方を推進し続けることで、今後は子育て事由以外の個人の事情も認めていき、子育て社員だけを特別扱いしないことが大切だと思います。


鈴木:

貴重なお話をありがとうございました。

本日は白河桃子様に「2022年からの男性育休新制度に向けて」
というテーマでお話しいただきました。

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