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「企業のダイバーシティ推進は何から、どのように進めるのか?」 HRカンファレンスレポート

ダイバーシティ推進は、近年、企業の経営課題となりつつあります。特に今年(2021年)、コーポレートガバナンスコードが改訂され「企業の中核人材において多様性を確保すること」が明記された影響は非常に大きいと言えるのではないでしょうか。

しかしながら、ダイバーシティ推進は、複合的な課題に取り組む「企業変革」そのものでもあります。何から始めたら最も効果的なのか、その道筋に悩まれる企業も少なくありません。

ダイバーシティを推進していくために、何がポイントになるのか。企業風土や経営方針にあわせた取り組みで大きな成果を上げられた、株式会社熊谷組の黒嶋敦子氏(本社管理本部ダイバーシティ推進部 人財活躍推進グループ 部長)にお話を伺いました。

聞き手はチェンジウェーブ・執行役員、鈴木富貴です。

※本レポートは2021年11月開催の「日本の人事部・HRカンファレンス」で行われた対談をもとに作成いたしました。


目次[非表示]

  1. 1.登壇者のご紹介
  2. 2.まずは、自社の課題を探り当てる~6年間に渡るダイバーシティ推進のあゆみ(黒嶋様講演より)
    1. 2.1.ダイバーシティ推進体制の確立
    2. 2.2.職場風土の改善
    3. 2.3.各種人事制度の改善・整備
    4. 2.4.職場環境の整備
    5. 2.5.長時間労働の是正
    6. 2.6.新しいことに挑める人財の育成(ESG・SDGsの観点における協働)
  3. 3.ダイバーシティ推進による具体的な成果
  4. 4.パネルディスカッション推進のポイントは目に見える変化とアンコンシャス・バイアスへの対処
  5. 5.質疑応答(カンファレンス参加者より)


登壇者のご紹介

株式会社 熊谷組
本社管理本部ダイバーシティ推進部 人財活躍推進グループ部長
黒嶋 敦子氏



株式会社チェンジウェーブ 執行役員 変革ソリューション事業部
鈴木 富貴

株式会社チェンジウェーブ執行役員鈴木富貴


まずは、自社の課題を探り当てる
~6年間に渡るダイバーシティ推進のあゆみ(黒嶋様講演より)

熊谷組におけるダイバーシティ推進の取組は、2015年の中期経営計画から始まりました。
「全員参加の経営に取り組む」というスローガンのもと、企業価値を高め、業績を向上させるためにはダイバーシティや働き方改革の推進は重要な経営課題だったのです。

当時の女性社員比率は13%ほど。多様な社員が活躍できる労働環境整備を検討する中で、5つの課題が見えてきました。

  1. 建設業全体の傾向として女性が少なく、女性技術者の割合も低い
  2. 女性の勤続年数が男性に比べて短い
  3. 女性に成長機会が与えられておらず、女性管理職が少ない
  4. 性別に加えて年齢による意識の差があり、上司と部下のコミュニケーションが不足している
  5. 長時間労働の常態化

これらの課題を解決するため、熊谷組では2016年にダイバーシティ推進室を発足させ、以下の取組を実施しました。


多様性で事業成長を生む熊谷組さまの事例


ダイバーシティ推進体制の確立

社長を委員長としたダイバーシティ推進委員会を設置。各支店・グループ会社等にもダイバーシティ推進担当者を男女同数選任しました。

企業姿勢の表明としてトップメッセージを発信し、その後も社内ホームページやコーポレートレポートで発信を続けています。


職場風土の改善

2016年以降、段階的・継続的に研修を実施しています。女性技術者の交流会をはじめ、女性向けのキャリアセミナー、管理職向けのダイバーシティ推進セミナーなどで意識改革を進めました。2020年度はアンコンシャス・バイアスへの対処を目的とし、経営層向け講演会とグループ会社を含む全社員を対象にeラーニングを実施しました。


熊谷組様研修事例

https://changewave.co.jp/2019/03/04/examplereport0306/

https://changewave.co.jp/2020/07/28/angle0730/


2018年より男性の育休取得も促進し、多様な人財が活躍できる組織風土の醸成をさらに進めています。


各種人事制度の改善・整備

誰もが働きやすい職場環境を整えるため、各種人事制度の整備も進めました。

熊谷組独自の制度として育児休業特別措置で育児休業開始時の14日間を有給化したことは男性育休の促進にも効果を出しています。また、9月より不妊治療休業制度、妊活支援休暇制度も導入しました。

留意したのは、制度検討時に社員へアンケートを行い、実際の意見を反映させることと制度導入前に必ず全国のダイバーシティ推進担当者に説明の機会を設定することです。各支店において制度がきちんと活用され、浸透するよう働きかけました。

 

職場環境の整備

現場作業所において女性が働ける環境整備や意識改革が重要課題であったため、2016年に現場環境整備チェックリストを制定し「トイレ」「更衣室」等女性用設備や環境づくりの基準を設けました。また、それを基に全国の推進担当者が働きやすい環境かを点検する「ダイバーシティパトロール」を実施し、現場改善を進めました。女性用設備が整えば、同時に男性用設備も整い、男女とも働きやすい環境となります。ハード面の変化を実感することで、社内の意識改革のみならず協力業者からも評価され、現場に女性担当者や技能者も増えました。より多様な人財が集まり、作業所のダイバーシティ推進にもつながっています。


長時間労働の是正

2018年、社長を委員長とする「働き方改革推進委員会」を立ち上げました。時間外労働削減の数値目標を設定し、行動計画を制定した結果、ひと月当たりの時間外労働が5年間で20.5時間(正社員1名あたり)削減できました。


新しいことに挑める人財の育成(ESG・SDGsの観点における協働)

技術本部が主体となり「クマガイR&Dミーティング」という、年齢・性別・部署を問わずすべての社員が技術開発のミーティングに参加することができる場を設けています。そして、ここではイノベーションが創出されています。そのような場でも、女性を含む若手社員は堂々と技術やアイデアについて講演し、役員からの質問にもしっかりと答え、人財の育成が推進されているのを実感しました。

また、ミャンマーの学校整備事業など、ESGやSDGsを目的とした新規プロジェクトにおいても多様な人財が参画、社外と協働し、多くの先進的な技術やアイデアを支援する組織風土が定着しつつあります。


ダイバーシティ推進による具体的な成果

ダイバーシティ推進に取り組み始めた2015年から2020年までの5年間で、売上高は135%、純利益は144%となりました。

女性管理職比率は6倍に、時間外労働の削減や男性の育休取得率向上においても大きく変化しましたし、外部評価としてもなでしこ銘柄2020や新・ダイバーシティ経営企業100選への選定、えるぼし3段階認定、PRIDE指標のシルバーなど、数多くの成果を残すことができています。

そうした変化に伴って社員の意識も少しずつ変わりました。女性活躍推進を入り口としてダイバーシティへの歩みを進めることが、企業価値の向上や競争力強化に繋がり、経営における大きな役割を果たすと実感しています。



パネルディスカッション
推進のポイントは目に見える変化とアンコンシャス・バイアスへの対処


チェンジウェーブ・鈴木富貴(以下、鈴木):
5年間の取組の中で留意された点、最も重要だと感じられている点は何でしょうか?

インタビュアー株式会社チェンジウェーブ鈴木富貴


熊谷組・黒嶋敦子氏(以下、黒嶋氏):
ダイバーシティ推進は、それなりに時間を要する問題だと思います。

ですから、熊谷組においては、経営者による全社共通のビジョンが元々あったことがとても大きいと考えています。当初から「全員参加の経営に取り組む」という合言葉を全社員で意識していたため、ダイバーシティ経営について賛同が得やすかったと思います。

また、推進施策を決めるうえでは、まず社員の生の声を聞くことが非常に重要ではないかと思います。寄せられた声の中から「自社において取り組みやすいところ」から始めていくことが大切なのではないでしょうか。

このほか全体的に言えることとして、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)への対処は不可欠ではないかと思います。正確に理解し継続的に学習を続けていくこと、誰もが持っていることを前提として、評価やコミュニケーションをすることが重要だと思います。

ご登壇いただいた株式会社熊谷組黒嶋さま


鈴木
おっしゃる通り、経営方針・戦略に紐づいたダイバーシティ推進であること、また、「自社の風土・本質課題にあわせた」取り組みであることは大変重要ですし、そうでないと成果が出るまでに時間がよりかかってしまうと思います。弊社が企業のダイバーシティ推進に伴走させていただくときも、そこは大切にしています。

また、「意識を変える」というのはなかなか難しいことですから、まずは「目に見える」変化を起こしていくこともポイントですね。


黒嶋氏
その点で言うと、チェンジウェーブさんに実施していただいた、管理職研修と女性社員研修の組み合わせは非常に有効でした。半日ほどの研修でしたが、管理職からは「これまで他部門の管理職と育成について話したことがなかったこともあり、学びが大変大きかった」との声が挙げられました。研修の場で部下のキャリアについてのリアルな希望やビジョンを知ることができたため、育成に活用できているようです。

あくまでひとつの事例ですが、先ほどご紹介した「クマガイR&Dミーティング」では多様な社員が活躍しています。実はそういった社員を育成している管理職の多くが、まさにこの研修に参加していた人たちです。それぞれの強みを活かした若手の育成に力を注いでくださっていると感じています。


鈴木
マネジメントが無意識に「どこまでやらせるのか」「やりたいと思っていないかもしれない」などと躊躇したり、配慮しすぎたりすることもあると思います。変革のステップとしてもよくお伝えするのですが、「気づかずにいる思い込み=自分の、自社の『当たり前』を崩す」ことは非常に重要です。

そういった無意識の思い込み、アンコンシャス・バイアスへの対処を行う手段として、弊社ではANGLEというeラーニングツールを開発、提供しています。

ANGLEには、IATというアンコンシャス・バイアスを測定するテストを搭載していまして、受講者の性別バイアス測定結果はこのような分布になっています。


ANGLE受講者の性別無意識バイアス


<IATとは>

  アンコンシャス・バイアスを測定するテスト 日本向けIATとは |【ANGLE】 「IATを用いてアンコンシャス・バイアスを数値化し、客観視すること」は、ANGLEをアンコンシャス・バイアス対処のツールとして用いる大きなメリットの一つです。ではIATとは、日本向けIATはどう開発されたのか、この記事でご紹介します。 ANGLE | アンコンシャス・バイアスを学び行動変容を促すeラーニングツール | 株式会社チェンジウェーブ


±0.65以上はバイアスが強い、とされるのですが、弊社のデータでは「男性と仕事、女性と家庭」を結びつける性別のアンコンシャス・バイアスについて、一般社員では、女性の方が強いという結果が出ています。女性自身にあるバイアスが「仕事と家庭の両立はできない」という思い込みを生んでいる可能性があるということです。

熊谷組様では、女性技術者をつなぐ交流会やキャリア研修によって「自分自身がバイアスの影響を受けている」ということに気づく機会を提供されたのだと思いますし、マネジメントがこうしたことを知って対応されると、大きな違いが出てくるのではないでしょうか。



質疑応答(カンファレンス参加者より)

Q.ダイバーシティ推進について、最初から社員の理解や協力は得られたのでしょうか?

黒嶋氏
最初はご理解いただけないところもあったかもしれません。そのため、建設業以外も含めた他社の取り組みなど、同じようにダイバーシティ推進を図る社外の仲間から多くの情報を収集しました。その具体的な事例を自社に伝えることで、皆に少しずつ理解してもらうことができました。

ただ、当然ながら、企業には独自の風土と特徴があります。他社の情報から客観的な視点と、自社アンケート等による社内の実情、双方を組み合わせながら「自社にとって本当に良い道は何か」を考えていくことが最重要ではないかと思います。


Q.熊谷組様では定期的なサーベイを実施されていますか?

黒嶋氏
もちろん定期的なサーベイも非常に重要だと思います。ただ、それだけではなく、一つの施策を実施した後には、「これに対しての意見はどうですか?」「今後はどのように活かしたいと思いますか?」などと具体的な意見をもらい、それを参考に改善を進めることが大切だと思います。そういった声が有用な効果指標となるのではないでしょうか?


鈴木
社員の声を深掘りし、経営方針に沿いながら、自社に合った取り組みを探すこと、また、現場を大事にしながら地道に改善を続けることで素晴らしい成果を上げられたのですね。本日は示唆に富んだ素晴らしいお話をいただき、本当にありがとうございました。

 

ChangeWAVE ANGLE事業部
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株式会社チェンジウェーブのANGLE事業部です。