アンコンシャス・バイアス 複数年の取り組み 〜企業事例を中心に〜
株式会社チェンジウェーブでは、2月15日と20日の2回に渡って「アンコンシャス・バイアス対処からインクルージョンへ〜複数年の取り組みをどう位置付けるか〜」と題したオンラインセミナーを実施しました。
特別セミナー レポート連載
「アンコンシャス・バイアスからインクルージョンへ 複数年の取り組みをどう位置づけるか」
No.1 アンコンシャス・バイアスへの複数年にわたる企業事例 ※本記事はこちら
No.2 アンコンシャス・バイアスからD,E&Iをどう進めるか〜「活かしあう」組織づくりのために〜」
No.3 アンコンシャス・バイアスからD,E&Iをどう進めるか〜 「活かしあう」組織づくりのために〜」質疑応答
進行はチェンジウェーブ・取締役の大隅聖子が務め、
第1回は「アンコンシャス・バイアスへの複数年にわたる取り組み事例」をご紹介。
第2回はゲストに株式会社デジタルホールディングスのグループCHRO、石綿純様をお迎えし、D,E&Iの具体的な進め方と戦略の立て方についてお伺いしました。
この記事では第1回のセミナーについてレポートします。
目次[非表示]
登壇者紹介
株式会社チェンジウェーブ 取締役 大隅聖子
大学卒業後、リクルート(現・株式会社リクルートホールディングス)に入社、
17年の勤務で営業組織を率いたのち、2006年株式会社ローソン入社。
2009年開発統括本部・オーナー開発部長、新たなフランチャイズシステムの構築責任者、さらに2012年理事執行役員就任。
ヒューマンリソースステーションダイバーシティ担当として女性の活躍推進を牽引した後、2015年株式会社永谷園 健康食品事業部長就任。
同年、チェンジウェーブ参画および顧問就任。2020年2月取締役就任。
ダイバーシティ推進と無意識バイアスに関する相関性
2021年6月、コーポレートガバナンスコードが改訂され、「多様性確保」が明記されました。
女性・外国人・中途採用者を中核人材として登用する考え方と目標の設定、また多様性の確保についての会社の取り組みを明確にすることが企業評価に繋がるとあります。
この改訂の影響は大きく、企業では既にダイバーシティを重要な経営課題として捉えることは必須です。しかし推進については複合的に問題が絡み合い、ストレートには進まないというのが現状かもしれません。
大隅
「男性=仕事、女性=家庭や、男性=リーダー、女性=サポーターと無意識のうちにイメージしてしまうアンコンシャス・バイアスは、上記図のどのパターン、どの階層においても影響がある問題です。シニアの活躍業務再設計や中堅や若手の抜擢、中途採用者の活躍といった問題にも、アンコンシャス・バイアスが大きく関わっています」
アンコンシャス・バイアスは脳の省力モード
アンコンシャス・バイアスとは、誰でも持っている脳の省力モード機能です。
人間の脳は1秒間に1,100万件の情報を受け取っていますが、その中で自分が「意識して」判断しているのは40件ほどだそうです。脳の迅速な判断のため、ほとんどの情報は省力モード…無意識のうちに処理されています。
これは誰もが持つ、大切な機能ではありますが、社会生活の中でその省力モードが働くことには、良い面ばかりだとは言えません。
例えば「育児中の女性で管理職を担っている人は少ない」という事実がバイアスを構築し、省力モードが働いてしまうと、以下の図のようなことが起こり得ます。
パターン認識が作られると、これを補強する情報を脳は優先的にピックアップします。この繰り返しによって「育児中の女性に管理職はいない」という既成事実が作られ続け、ますますバイアスが強固になっていきます。女性自身も「育児中に管理職は無理」だと思いこんでしまいます。
このループを切り、事実を変えていくために、アンコンシャス・バイアスへの対処が必要になります。
無意識バイアスの対処のための3ステップ
無意識バイアス(アンコンシャス・バイアス)に対処するには「知る」「気づく」「コントロールする」という3ステップがあります。
バイアスについて知識はあっても「自分にはない」「ウチの職場は大丈夫」と考えていると、その先には進みません。
「気づく」というステップにおいて、数値を出して提供することで、よりわかりやすく可視化でき、自分ごとにしやすくするのが、チェンジウェーブが提供する「ANGLE」です。
2018年にリリースし、管理職用/一般社員用のツールを用意しています。現在までに受講者は合計8万人を超えています。以下、ANGLE受講者のデータを共有します。
管理職における性別バイアスの傾向:子どものいる女性に海外出張を打診するか?
受講者のデータから見ると、総論的に「こうすべき」と思っていることと、具体的な事例に合わせた各論的な考えとに、実際、ズレが生じていることが見えてきました。
例えば、ほとんどの管理職が総論では女性活躍推進に賛成しており、「男女に能力差はなく、平等に登用すべき」と回答しています。それにも関わらず、「1歳の子どもがいる社員に海外出張を打診するかどうか」という問いに対しては、男性社員への打診に比べ、女性社員への打診は23%も少なくなります。各論では性別による差が出ているのが現状です。
非管理職における性別バイアスの傾向:女性が家を守るべきと女性の方が思っている?
また、同様にANGLE受講者のデータでは、ほとんどの方が女性=家庭、女性=サポートという
バイアスを持っており、しかも、男性より女性の方がバイアスの強い人が多い、という傾向が
ありました。管理職登用の際に、女性がなかなかトライしない原因のひとつはこういうところ
にあるのかもしれません。
年齢バイアスの傾向:シニアには期待しない?
また、年齢バイアスに関する結果では、ベテランも若者も、シニアに対するネガティブバイアスの方が強いという結果が出ています。
参考記事
アンコンシャス・バイアスへの企業の取り組みについて
では、そのバイアスにどう対処するのか、企業の取り組みをご紹介します。
事例1:女性管理職登用に向けたアンコンシャス・バイアスへの対処
女性管理職を登用していくためのプログラムは、リーダー候補の女性とその上司向け、両面から行います。
STEP1 リーダー候補の女性/女性候補者の上司
それぞれがANGLEを受講します。
STEP2 リーダー候補の女性/女性候補者の上司
ANGLEの結果を分析し、傾向や意識のズレを見ます。
この企業では、「機会提供において属性による差が生まれている可能性がある」「女性自身が長期的なキャリアパスを描けていない」「機会提供や育成に関わる管理職の言動について、管理職と一般社員で認識の差がある」といった課題が出てきました。
現状を把握して数値化すると、社内への説得力も増します。数値化によって課題を抽出した後は、以下のように取り組みました。
STEP3 研修の実施
リーダー候補女性向け
自分が自分のアンコンシャス・バイアスに縛られているということを重視。自分のバイアスに気づき、その枠から踏み出せるように、マインドとスキルの両面から研修を実施します。
女性候補者の上司向け
課題感のあるバイアスの数値を明確に認めた上で、バイアスコントロールを行う方法をマネジメントスキルとして身につけるべく、ワークショップを実施します。
STEP4 1on1面談
大隅
「STEP4では、1on1の面談をしていただきます。リーダー候補の女性も、また、その上司もそれぞれにデータを見てバイアスを認識し、対処の方法、コミュニケーションの取り方を学んでいただきましたので、この1on1は、今までとは違ったコミュニケーションであったとのことです」。
「具体的な成果として、リーダー候補の女性はキャリア形成に前向きな気持ちになっていただけたと聞いております。実際、昇格の数も数値目標に対して増えてきているという結果が出ています。バイアスを起点とした学習としては大変成功され、ベースを作られた例だと思います」
事例2: その他の管理職向け研修
STEP1 管理職/一般職
それぞれがANGLEを受講
STEP2 管理職/一般職
ANGLEの結果数値を別に出し、傾向を分析
大隅
「管理職のコミュニケーションについては、管理職と一般職の間で感じ方にギャップがあるケースが散見されます。ある種のショック療法かもしれませんが、その差を数値で見ていただき、上司のワークショップにぶつけます[STEP3]。それをコミュニケーション、マネジメントに生かすことで、まず上司から変わっていくことができます」
「ANGLEは、経営層が重視する「数値」が出るということで、経営層を対象としたプログラムも多く提供しています。STEP2では、企業規模にもよりますが、営業系/研究系/など部門ごとに数値を出す場合もあります」
事例3: 経営層を対象としたアンコンシャス・バイアス対処プログラム
STEP1 ANGLEを受講
STEP2 傾向を分析
STEP3 講演・ワークショップなどの実施
大隅
「ホールディングスがダイバーシティ推進の旗振りをしている場合などは、グループ各社、会社ごとの数値を出すこともあります。その会社の成り立ち、背景などによって課題は違ってきますので、それぞれの特徴や課題を抽出するニーズは強く感じています」
「ダイバーシティ推進とアンコンシャス・バイアスの相関性を、自社の数値と共にお話しすることで、自社課題について深く理解していただけると共に、全社で対処する足掛かりになるのが経営層向けのプログラムの特徴です」
アンコンシャス・バイアス学習を定着させるための中期施策
アンコンシャス・バイアス学習には、複数年の施策が必要だと考えています。
大隅
「管理職だけではなく、一般職の方も含めた社内全体に根づかせていくと、バイアスが社内の共通言語になってきます。フィードバック、意識もしやすくなります。
チェンジウェーブでは、年単位で取り組み、組織課題を具体的に解決しようという企業さまにしっかり伴走していきます」
チェンジウェーブでは、2023年秋、「バイアスマネジメントサーベイ(仮)」として、企業の継続的な施策によるマネジメントやコミュニケーション、登用や評価の変化を定点観測できるサーベイをローンチ予定です。
また、eラーニングのANGLEのほか、新入社員が入ってくる時期・評価の時期などに使用できるハンドブック、研修ワークショップ、導入ビデオなどのご提供もしております。
詳細は下記までご相談ください。
https://angle.changewave.co.jp/contact